宇宙投資の会は2025年9月18日、第10回勉強会を設立以来初の対面形式で開催した。多くの宇宙産業が利益を出すのに苦労しているなか、40年取り組みを行い、黒字化を成し遂げているスカパーJSATさん(以下、スカパーJ)からご講演をいただき、議論を行った。
「スカパーJってなんの会社だった?」
1985年に設立されたスカパーJはまず通信衛星を打ち上げ、回線を貸しだす事業を始めた。89年に初の通信衛星を打ち上げたが、初期の頃は衛星を喪失してしまったこともあった。すぐに挽回し、各業界の事業を調べ衛星を使う提案を行って行った。メディア事業を立ち上げたのは96年、収益は半々だが利益は宇宙事業の方が大きいそうだ。(筆者だけではなく、スカパーJはメディア企業というイメージが強く「なんの会社だった?」と驚く声も聞かれた)今後はさらに宇宙事業に力をいれ、新しく「スペースインテリジェンス事業」として、宇宙からの画像などを販売・分析を強化したいとのことだ。他にも今年1月1日付けで、安全保障本部を設立した。現在保有している衛星は通信衛星17機。他に米国のIntelsat社との共同衛星や、低軌道の地球観測衛星も10機購入を決定した。地上局としては横浜が主局で茨城と山口がバックアップ。また北海道と沖縄に低軌道衛星用の局を設置している。
衛星通信事業は、官公庁や自治体、企業がインターネットの登場以前から活用してきたそうだ。日本は地震大国であることから、電力、ガス、原子力事業、鉄道など災害時も通信を確保する必要がある事業では必須だ。携帯事業者もメインユーザーだという。最近では飛行機や船舶のWifiの利用も増えている。最近の動向としては、島国の多い東南アジアで需要が高まっているそうだ。現在、最新型衛星の打ち上げを予定しているが、これらは打ち上げた後ソフトウエアで衛星のビームの方向や強さを変更することができる。
新領域、スペースインテリジェンス事業
通信衛星に続いて、スカパーJは観測衛星市場(衛星写真などの需要。光学写真だけでなく、SARや熱赤外などもカバー)でも事業を行っているが、その強みは「自ら衛星を保有すること」だという。そうすれば好きなタイミングで撮像することができるからだ。さらに他の光学衛星を保有するPlanet Labs、BlackSkyと契約している。SAR衛星については、SAR衛星を製造する九州大学発のスタートアップ企業である、QPS研究所に出資をしている。そしてLIANA(リアーナ)という自社開発のアルゴリズムで、SARの衛星データの解析(一般的に2時間ぐらいかかる)を10分に縮めることに成功した。これらによって画像を販売するだけでなく、その情報を元にした分析・解析サービスの領域に力を入れて行くということだ。
他にも新領域として、量子コンピュータが実用化される時代に向け、安全に暗号鍵を伝送する方式として、量子鍵配送サービスに他社と共同で乗り出す。またスペースデブリにレーザーを当てて除去する事業にも取り組む。そして100億円の枠を割り当て、一緒に事業を作るスタートアップに出資をしていく。
ライバルはインターネット?
講演が終わり、参加した投資家からまずこれまでスカパーJのサービスを支えてきた静止軌道の通信衛星によるネットワークが、低軌道の衛星をつなぐインターネットサービスと競合しているのではないか、という質問を行った。
これに対し講師からは、今の顧客の中で大きな動きはない、低軌道衛星のStarlinkは公衆網のベストエフォート型で、スカパーJが提供するような安定した高セキュリティの専用線に異なるニーズを求めているという。一方でスカパーJとしても、Starlinkの代理店となり、さらにその競合であるAmazon Kuiperとも協業していくことを考えているそうだ。
他の投資家が、デブリ除去のビジネスを展開するスカパーJ自身の衛星利用後の回収の方針について問うと、静止軌道では”回収”はなく、寿命末期になったら36,000kmの軌道から少し高く上げて、少しずつ軌道から離すという取り決めになっている、と答えた。
衛星と安全保障
今衛星ビジネスは、安全保障と切っても切れない関係となっている。23年に内閣府が宇宙安全保障構想を発表し、官民で一緒に取り組む構想を示した。スカパーJも今後この分野に力を入れたいと考えており、「静止衛星から宇宙空間での利用状況を調べ安定的でサスティナブルな宇宙空間となることに貢献していきたい」と述べた。また低軌道に地球観測衛星コンステレーションを構築し、スタンドオフ防衛(敵のミサイル基地の状態を調べ、敵ミサイルの射程外から攻撃する計画)に貢献することを目指しているそうだ。
参加者の投資家から、「安全保障に取り組むのであれば、ASAT(衛星破壊兵器)への対応もあるか」という質問があり、これに対しスカパーJは、7月に防衛省から行われた発表に、自律的かつ機動的な運用が可能な衛星(ボディガード衛星)というのが記載されている。我が国ではロボットアームの技術が長けている。まずはモニターからと思うが抑止力だ」と答えた。
従来ESGの投資家のなかには、防衛産業に否定的な投資家も少なくなかった。今後投資先企業が取り組む安全保障の分野をどう評価するか、投資家もより考える必要があるだろう。
この勉強会の最後に、スカパーJの講師は、これから宇宙は伸びると思う。入社した頃はこんな時代になると思わなかった。我々の活動をぜひご理解いただきたい、と締め括った。

