7月23日、宇宙投資の会は第12回勉強会を開催した。温室効果ガス排出・吸収を衛星などでモニターする技術にチャレンジするアクセルスペースをお呼びした。またこの技術のサステナブルファイナンスにおける可能性について議論するため、長年ADBにおいてアジア地域の債券市場育成にかかわり、リタイア後はADBコンサルタントとして活躍されている山寺智氏をパネリストとしてお迎えした。
遠隔でCO₂濃度を観測する技術
まずアクセルスペースから、自社の技術がどのように遠隔でCO₂濃度を観測し、排出や吸収の解析を行う想定であるかが解説された。同社の「次世代地球観測衛星に向けた観測機能高度化技術」は、JAXAに設置された「宇宙戦略基金」事業に採択されている。CO₂濃度をモニターするだけでなく、衛星、航空観測、地上データを組み合わせ、どこからどれだけ排出・吸収されているかを発生源別に評価するシステムを築するものである。この技術をもとに同社が目指すのは、世界中の大都市の解析に最適化した観測システムの構築だ。動植物の呼吸等による自然排出と区別し、化石燃料の燃焼による人為的排出を見極めるため、高温燃焼時に同時発生する二酸化窒素(NO₂)も合わせて観測する。さらに、植物の光合成時に発する光(太陽光誘起クロロフィル蛍光:SIF)を観測することで、CO₂の吸収量も評価する。風などで濃度が変わるため、複雑な都市気象データも合わせて取得・分析し、政府、企業、自治体が排出削減施策に利用できる定量的なデータの提供を目指している。
同事業は3つの連携機関と共同で進めている。人工衛星搭載センサの開発実績をもち、気象観測機器も手掛ける明星電気株式会社と、航空機による観測を担当するANAホールディングス株式会社、そして東京科学大学発スタートアップで量子計算機ベンチャーの株式会社JIJだ。高頻度の常時モニターによる膨大なデータの処理に、量子計算技術を活用したいと考えている。国際的なCO₂排出データベースを保持する米国のUSRAとも連携している。
また同事業で用いるCO₂濃度を正確に測る原理は、衛星から地表面までの大気中に存在する分子の数を数えるというもの。二酸化炭素やメタンは、特定の波長の光を吸収するため、打ち上げ前の実験として、例えば1mのガラス管に気体を入れ、光を照射すると、分子の振動・回転によって特定の色の光が減衰する。その量から分子の数を導き出す。二酸化炭素の増加により熱が逃げにくくなる温暖化現象そのものを、地表面から衛星軌道までの分子の数を計測することで正確に定量化している。
この技術はメタンの排出量解析などでは確立しているが、CO₂には独自の難しさがある。メタンの発生源が石油・ガス田や畜産場など限定的であるのに対し、CO₂の主要発生源は都市で様々な産業活動が同じエリアに混在しているためだ。さらに風が強い日はCO₂が拡散して濃度が下がり、逆に弱い日は蓄積して高くなるため、濃度データのみでは正確な排出量を特定できない。風速などの気象条件を考慮した解析が必要となる。アクセルスペースでは、化石燃料由来のCO₂を捉えるため、燃焼時にCO₂と同時に発生する二酸化窒素(NO₂)に着目、NO₂は大気放出後2〜3時間で化学反応を起こし消滅するため、排出された「瞬間」と「場所」を捉える指標となる。また、植物の光合成時に出る光(SIF)を観測することで、吸収量も把握できる。人間の目には見えないCO₂、NO₂、SIFなどの分光情報を識別できる高精度なセンサの開発に取り組んでいる。
ヨーロッパの衛星データと重ね合わせた植物の光合成蛍光データでは、日本列島の樹種や領域による光合成強度の違いが判明している。樹種、樹齢、農地、都市緑化などの違いによるCO₂吸収量を詳細に評価できるため、効果的な緑化政策・森林管理への応用が可能だ。同社は現在、自社の強みである小型衛星のコンステレーションを活用し、100km四方の都市圏を高頻度でモニターする計画を進めている。
広範囲なアジア諸国と投融資の課題
続けて、パネルディスカッションに先立ち、パネリストであるADBコンサルタントの山寺氏から、ADBの取り組みなどが紹介された。
ADBでは、衛星を活用した各種モニタリングに高い関心を持っている。その一つとしてCO₂のモニタリングにも期待している。アクセルスペースの技術は、高精度なセンサでこれまで見えなかったものを可視化し、広範囲にCO₂やNO₂などのデータを取得できるという点が非常に興味深い。
アジア各国に投融資するADBは、広範囲なアジア諸国の実際の状況を確認する必要がある。現状を示すことができれば、そこから削減に向けた施策や、高いCO₂吸収能力を客観的に示してカーボンクレジットを創出するといった可能性が提示できる。成長が著しく排出量の多い中国やインドの状況を把握し、削減をサポートする際にも客観的なデータが必要だ。そして、変化量を測定できるということで、特定の地域における過去・現在・未来の変化を追うことで、今後の取り組みを支援できる。ADBとしてはサプライチェーンにおけるCO₂排出量の把握に着目している、と述べた。
GHG観測の実現可能性は
つづけて3人目のパネリストであるいちごアセットマネジメント(「未来の企業価値研究会」代表理事)の石塚氏は、独自技術によるGHG観測と気象観測の強みがよく理解できた。また、同一手法で長期かつグローバルに観測できるエビデンスは価値が高く、実用市場および資本市場に大きなインパクトを与えると感じた、と述べた。そのうえで、投資家の視点から2点質問を挙げた。1点目は、本格的な衛星運用の前に航空機観測でどの程度カバーできるのか、また航空機では不可能で宇宙(衛星)だからこそ可能な観測領域は何か。2点目は、本技術がどのような時間軸で社会実装されることを想定しているか、また個別企業の行動にどう接続していく見込みか、と質問した。
これについてアクセルスペースは、1点目について航空機観測の強みは、衛星運用に向けた実証段階において上空から包括的にデータを捉えられる点。一方、航空機では困難で人工衛星が得意とするのは、100kmスケールといった広域での評価。例えば関東圏の排出量を評価する際、風上(他地域)から流入する影響を正確に把握して差し引く必要がある。こうした広域の風上流入の評価は、人工衛星が得意とする領域、と答えた。
続けて2点目については、可能な限り早期の社会実装を目指しており、2030年前後を計画していると答えた。それに向けて今後5年程度で衛星観測への機運を高め、続く5年でデファクトの観測手法として定着させることが目標だということだ。
続けてQ&Aとなり参加者からは、世間ではOGMP(Oil & Gas Methane Partnership)によるフレアリングの監視が注目されている。フレアリングの監視と比較して、GOSAT-2による測定は技術的な難易度やアプローチにどのような違いがあるのか、という質問がでた。
これに対し、アクセルスペースが観測しているのは対象物質の濃度そのものであるとこたえた。
また別の参加者から、本技術は燃焼生成物やNOxなども観測可能とのことだが、途上国における大気汚染全般の把握や、都市気象・都市計画への応用可能性はどうか、また仮にこうしたデータを提供できた場合、マネタイズが可能な情報となり得るかという質問が得られた。
アクセルスペースからは、途上国では大気汚染による健康被害が非常に深刻であり、NO₂は大気質の極めて重要な指標。また酸素の測定について補足すると、酸素は大気中で常に一定の割合で存在するため基準として機能する。宇宙からの観測において、大気中の微粒子による光の散乱があると見かけ上の酸素濃度が変化するため、この原理を利用して微粒子の散乱状態(エアロゾルと呼ばれる微小粒子)を正確に測定できると考えられると答えた。
マネタイズの可能性は?
マネタイズについては山寺氏から、そうした情報のニーズは存在する。例えば、野焼きによる煙害や中国からのPM2.5、黄砂など、アジア地域では越境大気汚染が大きな問題となっている。ピンポイントで発生源を特定できるエビデンスデータは、国家間の対話において強力なカードとなり得る。利用主体や活用法次第でマネタイズの可能性はあるかと思う、という回答が得られた。
次に、「現在は活動量に基づく測定方法が主流だが、今後はエビデンスに基づく排出量測定法の採用も検討されるべきではないか。政府経由での働きかけ等の予定はあるか」との質問が届き、
IPCC等では人工衛星データの有効性を記載してもらうまでには非常に時間がかかったが、10年の歳月を経て評価され、現在は人工衛星によるモニタリングの重要性が認められている、と答えた。そして次のステップとして、排出量計測や削減指標のモニタリングにおいても有効であることを認めてもらう必要がある、今後もこの主張を継続していく必要がある、と答えた。
それに続けて、監査法人の参加者から、サステナビリティアシュアランスでCO₂の衛星からの情報の活用の議論について海外で聞いたことがあるという声があった。
パネリストの石塚氏からアクセルスペースに、競合優位性の源泉についてと、顧客へデータを提供する際、解析済みの結果のみを提供するのか、ローデータの提供も可能なのかについても質問が出た。
アクセルスペースは、高性能なセンサーだけでなく、解析技術、さらに、大気中で拡散するCO₂の挙動から排出源とその量を逆算・推定する技術などの統合力を強みにしていく考えだと答えた。
最後に、モニタリングの先にある実効的な排出削減や吸収の推進には、事業体を動かすためのインセンティブや規制等の仕組みが必要になると考える。この点についてのお考えを聞かせてほしい、と問われ、アクセルスペースは、排出事業者から直接対価を得るビジネスモデルは困難と考えている。サステナブルファイナンスやグリーンファイナンスの仕組みを活用し、基準を満たす企業へ融資・投資が行われるプロセスにおいて、ファンドの運用経費等からモニタリング費用が賄われる構造を目指している、と答えた。
ディスカッションのまとめとして、パネリストである山寺氏は、本技術は、従来困難であった観測や把握を可能にする画期的なものであると評価している。CO₂排出量の把握において、ミクロデータの単純集計が必ずしもマクロの全貌と一致しない背景には、海洋や地中への吸収など多角的な要因が存在する。今回の技術を通じて新たなエビデンスの発見や分析が促進され、CO₂に限らず広範な領域において議論がより深化することを期待する、と締めくくった。

