-- あらたな宇宙開発の幕開け --
寄稿 宇宙開発エバンジェリスト 戸梶 歩氏

日本時間2026年4月2日早朝、NASAはArtemis IIを打ち上げ、現在(原稿執筆日時:4月7日)、半世紀ぶりとなる有人月フライバイ飛行を行い、地球帰還に向けて飛行を続けています。これは、アルテミス計画が将来計画ではなく、実際に人を乗せて進む段階に入ったことを示しています。
それに先立ち、NASAは2026年2月にアルテミス計画全体をより現実的なものへと修正しました。NASAは2027年に新たなミッション(アルテミスIII)を追加し、地球の周りをまわる軌道で民間が開発している月着陸機とのランデブーやドッキング、生命維持や通信、推進などの統合実証を行うこととしました。そして、2028年にこれまでアルテミスIIIと呼ばれていた月面着陸ミッションをアルテミスIVとして再設定し、月面を目指す方針としました。同時に、その後は1年に1回の月面有人ミッションを行う考えも打ち出しました。無理のあるスケジュールと技術的な難易度に挑戦することより、実現可能なスケジュール・段階的アプローチに変更した今回の計画変更は好意的に受け止められています。
アルテミス計画がアポロ計画の時のように「行って、旗を立てる」だけが目的ではなく、「恒久的な滞在拠点を作り、月面に滞在する」ことが目的としており、NASAは3月に行った説明で、従来のような特注型・低頻度の探査から、継続可能な月面活動へ移行する方針を示しました。
その中核をなすものの一つがCLPS(Commercial Lunar Payload Services:商業月輸送サービス)です。CLPSは、NASAが月面輸送を自前で一から開発するのではなく、民間企業から輸送サービスとして調達する仕組みです。仕組み自体は新しいものではなく、国際宇宙ステーションへの物資や人員の輸送など地球低軌道への輸送に関してすでに同じ仕組みが採用されています。NASAは現時点で14社を対象に契約を結び、無人月着陸機による月面着陸を、現在は1年に1-2回程度のペースですが、2027年からの3年間で最大30回を目指すとしています。契約総額の上限は2028年までで26億ドルです。ここでNASAが買っているのは、単なる打ち上げではなく、機器の統合、飛行、着陸、運用までを含む一連のサービスです。月面輸送をも政府の専有領域から、民間企業が担う市場へと変えようとしている点に、CLPSの意義があります。
この仕組みが意味するものは小さくありません。月面輸送がサービス化されれば、機会は着陸機のメーカーだけにとどまらないからです。通信、航法、電力、熱制御、ローバー、掘削、データ処理、地上運用支援といった分野にも、継続的な需要が生まれます。NASAは、月面基地構築のフェーズ1と位置付けた現在から2028年までの期間にCLPSなどを通じて、月面活動のテンポを高め、移動、発電、通信、航法、表面運用、各種科学調査を前進させるとしています。
そして、フェーズ2として想定されている2029年から2032年にかけては初期インフラの確立を目指すとしていて、その中核としてはJAXA(宇宙航空研究開発機構)とトヨタ自動車などが開発する有人与圧ローバーが月面で稼働を始めるとともに、2030年を目指して月面用原子炉の開発が行われることも発表されています。ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、月面では2週間の昼と夜が繰り返されます。夜は太陽電池パネルによる発電が行えず、また、非常な低温になるため、ヒーター電力が必要であり、月面の2週間続く夜の間に電力を確保することが課題であるため、太陽光の必要の無い原子力発電は月面でのエネルギーソースとして有力視されています。
そして、2033年以降のフェーズ3では長期滞在の実現のための大型の設備が月面へと運ばれます。その一部は今回の計画見直しで開発が凍結(事実上のキャンセル)されてしまった月周回有人拠点Gatewayの資産の活用も検討されています。このフェーズになると多数の月面施設が建設され、宇宙飛行士の恒常的な月面滞在が行われるようになります。
2024年の宇宙経済は約6,130億ドルであり、その大半を商業部門(商業セクター78%、政府セクター22%)が担ったとされています。こうした中でいま起きているのは、低軌道利用に続き、月輸送と月面運用という新たな層が立ち上がろうとしていることです。CLPSの拡大を含むアルテミス計画の修正はそれを後押ししています。
現在進行中のアルテミスIIミッションは、人類が再び月へ向かうという夢だけではありません。月へ向かう営みを、より無理のない日程で、より高い頻度で、そしてより多くの民間企業を巻き込みながら続けていく計画が、少しずつ現実になり始めたということを示しています。宇宙は依然として技術的にも資金的にもハードな挑戦が必要な分野ですが、いまはその挑戦が、継続的な市場へと姿を変え始める局面にあるのではないでしょうか。ぜひ投資家の皆さんにはアルテミス計画の進捗をはじめとした宇宙開発の動きに注目していただき、これはというものに投資することによって、ビジネスパーソンとしてだけではなく、人類の宇宙開発を推し進めるサポーターとなっていただければと思っています。

